イラストレーターのための、創作以外のタスクに疲弊しない習慣
フリーランスイラストレーターと創作以外のタスク
フリーランスとして活動するイラストレーターにとって、クライアントワークや自主制作といった創作活動そのものは仕事の根幹をなします。しかし、実際にはそれ以外にも、様々な事務作業が発生します。例えば、クライアントとのメールやチャットでのやり取り、請求書や領収書の発行、経費の記録、ポートフォリオの更新、SNSでの情報発信、契約内容の確認、スケジュール管理など、その範囲は多岐にわたります。
これらの創作以外のタスクは、直接的な収益に結びつかないように見えながらも、事業を継続するためには不可欠なものです。しかし、創作活動の合間にこれらの作業が割り込むことで、集中力が途切れたり、想定以上に時間がかかったりし、結果として心身の疲労につながることが少なくありません。特に納期が迫っている時期には、事務作業の遅延がさらなるプレッシャーとなり、疲弊を招く要因となりえます。
なぜ創作以外のタスクは疲弊を招くのか
創作以外のタスクが疲弊を招く背景には、いくつかの要因が考えられます。
まず、タスクの性質の違いが挙げられます。創作活動は創造性や集中力を要する一方で、事務作業は定型的で細かな注意力を必要とします。脳の使い方や必要なエネルギーの種類が異なるため、頻繁な切り替えは脳に負担をかける可能性があります。
次に、明確な終わりが見えにくいという点です。例えば、メール対応やSNSチェックは、次々と新しい情報が更新されるため、「これで終わり」という区切りをつけにくい傾向があります。これが、作業時間の長時間化や、常時「やらなければ」という意識につながり、精神的な負担となります。
また、評価されにくい、あるいは苦手意識があるという側面もあります。創作活動の成果はイラストという形で目に見えやすいですが、事務作業は地味で評価されにくいと感じることがあります。また、経理処理など、元々得意でない分野の作業は、より大きな精神的エネルギーを消費し、疲弊しやすくなります。
創作以外のタスクに疲弊しないための習慣
これらの課題に対処し、創作以外のタスクに疲弊することなく、持続的に活動していくためには、いくつかの習慣を取り入れることが有効です。
1. タスクの可視化と分類
まず、自身が日頃行っている創作以外のタスクを全て書き出してみます。メール返信、請求書作成、経費入力、SNS投稿、ブログ更新、ファイル整理、情報収集など、大小問わずリスト化します。次に、これらのタスクを性質や緊急度、重要度で分類します。例えば、「毎日行うもの」「週に一度行うもの」「月に一度行うもの」「緊急度の高いもの」「重要だが緊急ではないもの」といった分け方です。
このプロセスによって、自分がどれだけの事務作業を抱えているのか、そしてそれぞれのタスクにどのような性質があるのかを客観的に把握することができます。可視化するだけでも、漠然とした不安が軽減されることがあります。
2. 処理時間の予測と時間枠の設定
リストアップ・分類したタスクについて、一つあたりにかかるおおよその時間を予測します。最初は正確でなくても構いません。そして、これらのタスクをこなすための具体的な時間枠を意識的に設定します。
例えば、「メールチェックと返信は毎日午前中に15分」「請求書作成は毎月第1週の午後に1時間」「経費入力は毎週金曜日の終業前に30分」のように、カレンダーやタスク管理ツールに組み込みます。事務作業のための時間を予め確保することで、創作活動中に「これもやらなきゃ」と気が散るのを減らすことができます。また、設定した時間枠を超えそうになったら、一度中断して別の時間に対応するといった区切りもつけやすくなります。
3. ツールや仕組みの活用
創作以外のタスクの中には、ツールや仕組みを導入することで効率化できるものが多くあります。
- メール管理: メールフィルターを設定して重要度を自動分類したり、定型的な返信はテンプレートを用意したりします。
- 請求書・経費管理: 会計ソフトや請求書作成サービスを利用することで、入力の手間や計算ミスを減らせます。
- タスク管理: タスク管理アプリやツールを活用し、タスクのリスト化、期限設定、進捗管理を行います。
- ファイル整理: クラウドストレージを活用し、自動バックアップやどこからでもアクセスできる環境を整えます。ファイル名やフォルダ分けのルールを決め、定期的に整理する時間を設けます。
- 情報収集・学習: 後で読むためのブックマークツールや情報収集アプリを活用し、作業中に脱線しない工夫をします。
これらのツールは初期設定に多少の手間がかかることがありますが、長期的に見れば時間と労力の削減につながり、疲弊を防ぐ効果が期待できます。
4. 「やらないこと」を決める勇気
全ての事務作業を一人で完璧にこなそうとすると、どうしても負担は増大します。時には、「これは自分でやる必要はないのではないか」「もっと効率的な方法があるのではないか」と立ち止まって考えることも重要です。
例えば、記帳や確定申告といった経理業務に苦手意識があり、それに費やす時間と精神的な負担が大きい場合、税理士への委託を検討することも一つの方法です。費用はかかりますが、その分生まれた時間と精神的余裕を創作活動や他の重要なタスクに振り向けることができれば、結果として事業全体の効率や満足度が高まる可能性があります。また、必要以上にSNSに時間をかけすぎない、完璧なブログ記事を目指さず短い更新でも良いとするなど、「やらないこと」や「ほどほどにすること」を決めることも、疲弊を防ぐためには有効です。
実践のためのヒント
これらの習慣を日常に取り入れるためには、一度に全てを変えようとせず、小さなステップから始めることが推奨されます。例えば、まずは毎日発生するメールチェックと返信の時間を固定することから始めたり、使っていないファイルを週に一度整理する時間を作ったりするなどです。
また、自分がどの事務作業に最も時間やエネルギーを奪われているのか、簡単な記録をつけてみることも有効です。記録することで、漠然とした負担感が具体的な課題として見えやすくなり、どこから改善に着手すべきかのヒントが得られます。そして、一度決めたルールや時間設定も、状況に応じて見直し、自身にとって最も無理のない、持続可能な形に調整していくことが重要です。
まとめ
フリーランスのイラストレーターが創作活動を長く続けていくためには、創作以外の事務作業との健全な付き合い方が不可欠です。タスクの可視化と分類、時間枠の設定、ツールや仕組みの活用、そして必要に応じて「やらないこと」を決める勇気を持つこと。これらの習慣は、事務作業による疲弊を軽減し、限られた時間とエネルギーを最も重要な創作活動に注ぐための土台となります。これらの習慣を意識的に取り入れることで、より心地よく、持続可能なフリーランス活動を送るための一助となるでしょう。